大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和43年(ネ)1159号 判決 1975年9月10日

控訴人(選定当事者)

木下啓久

控訴人(選定当事者)

稲葉保

右両名訴訟代理人

石井成一

外三名

被控訴人

南伊豆観光株式会社

右代表者

横田保

右訴訟代理人

毛受信雄

外一名

主文

原判決を取り消す。

控訴人らと被控訴人との間において被控訴人が原判決添付物件目録記載の土地につき賃借権を有しないことを確認する。

被控訴人は右土地に立ち入つてはならない。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一控訴人両名並に亡山田真澄及び別紙選定者目録記載の選定者らが本件土地につき共有の性質を有する入会権を有することは原判決理由の一ないし三項に説示するとおり(但し、原判決八枚目表七行目の「昭和三九年一一月二九日」以下同枚目裏一行目の「議題とされたこと」までを削除し、同九枚目裏一行目に「地位区」とあるを「他地区」と訂正する。)であるから、これを引用する。

当審鑑定人石井良助(第一、二回)、同川島武宣の各鑑定の結果は右引用に係る原判決の認定を補強するものであつて、当審にあらわれたその他の証拠については、これを子細に検討するも、右認定を左右するに足りるものはない。

二次に、湊区長の木下新作が昭和四〇年一月一三日被控訴人との間に、ホテル等の施設の所有を目的として本件土地を被控訴人に賃貸する旨の契約(以下本件賃貸借契約という)を締結したことは当事者間に争のないところであるが、右の賃貸借契約につき、控訴人らは、入会権の性質上または湊区における慣例上入会権者総員の合意または同意を必要とするところ、これを欠くから無效であると主張するのに対し、被控訴人は、湊区の最高議決機関である総会の決議は出席者の過半数によつてなされる慣わしであるところ、昭和三九年一一月二一日開催された臨時総会において圧倒的多数をもつて決議され、更に昭和四〇年一月一五日開催された吉例と呼ばれる定時総会において異議なく承認されているから、有効であると主張するので、以下この点につき検討を加えることとする。

<証拠>を綜合すれば、ホテル等の施設の建設のため本件土地を他に賃貸することはその入会的利用形態の変更を来たすものであるから、原則として、これにつき入会権者全員の同意が必要とされるのは入会権の性質上当然のことであり、そして、本件土地を含む浜の入会集団を包摂する湊区においては、入会地に関する事項のうち、常務的管理事務のような比較的重要でないものついては区長及び評議員らの役員(これらは、吉例と呼ばれる湊区の定時総会において選出されるものであるが、実質的には入会団体の機関としての機能をも併有している。)がこれを決定処理しているけれども、その他の事項については入会権者である住民の全員の了承のもとにこれを決定実施しており、例えば、昭和三二年二月に浜のうち本件土地に隣接する部分を訴外東海自動車株式会社に賃貸した際も、区長は、区内の各班の班長を通じて入会権者である住民に対する説明、説得を行い、ほぼその同意が得られる見通しがついたところで同年一月一五日開催された吉例において右賃貸の件を付議したが、なお一部の反対者があつたところから、更に同人らに対する説得を重ね、これを納得してもらい、結局入会権者全員の同意を得ているのであつて、従つて、本件入会集団における慣習は、前記原則を何ら修正、変更するものでなく、本件賃貸借契約の締結のような行為については入会権者全員の同意を必要とするものであることが認められる。

しかるに、本賃貨借契約の締結につき本件入会権者の全員の同意があつたことについてはこれを認めるに足りる証拠がなく、却つて、<証拠>を綜合すれば、被控訴人の主張する臨時総会のみならず吉例においても一部の反対者があつたことが明らかであるから、本件賃貸借契約は無効のものといわなければならない。

三被控訴人が本件賃貸借契約を有効として本件土地をホテル建設等観光事業等に使用するための準備を進めていることについては被控訴人の明らかに争わないところであるから、これを自白したものとみなされる。

四なお、被控訴人は「控訴人らを含む入会権者らは、現在、本件土地につき慣行による従来の使用収益を廃止しているかまたはこれを禁止されているから、本件土地に対する妨害排除請求を有しない」旨を主張するけれども、控訴人らが本件土地につき共有の性質を有する入会権を有することは前述のとおりであつて、控訴人ら入会権者は入会地である本件土地につき総有権を有しているのであるから(個々の入会権者の総体と別個に入会権者の団体を観念し、この入会団体に入会地の総有権が帰属するとなす被控訴人の見解は採用し難く、入会団体の所有地は同時にまた入会権者の総有地であると解すべきである。)、現に本件土地の使用収益をしていると否とにかかわらず、右の総有権に基づく本件土地に対する妨害排除請求権を有することは明白であるのみならず、<証拠>を綜合すると、現在も、本件土地上には本件入会集団所有の舟小屋、網小屋等が存在し、入会権者らは本件土地を稲、籾、大根等の干場として利用しており、また、本件土地上に生育する松林の管理をしていることが認められるから、右被控訴人の主張は理由がない。

五以上の次第であるから、控訴人らの本訴請求は正当として認容すべきであつて、これを棄却した原判決は不当のものといわざるをえず、取消を免れない。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(満田文彦 真船孝允 鈴木重信)

選定者目録《省略》

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例